大丈夫 貴方をずっと想っているから
明るい笑い声、戯れて触れる温度、向けられてきたやわらかな瞳。
そんな彼がいた空間が恋しくなるのは一人、ちっぽけな世界を眺めているときだった。
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あの青い惑星地球に、バンブルビーは一人で飛び立ち重要な任務を背負っている。
自分も何度一緒に行けたらと想った事だろうか?
「・・・・・・おい、脅かすつもりだったのか。ラチェット」
「全然、そんな気は無いがね」
後ろから徐々に近づいてきた足音に振り向くことなく言葉を投げかけると案の定、彼の声が返ってきた。
「声くらいかけてくれよ。物音立てないで後ろ立たれたら反応しっちまう」
「おっと、それはすまないな」
隣の開いた空間に、ラチェットは肘をかけ頬杖を付いて冗談に軽い笑みを零した。
「自分のメンテナンスが終わったから、少し休憩に。其方は?」
「俺もちょっと、な」
表面上、笑顔を作りながら心中は複雑なものだった。
いつもと変わらない日常。
そんな中にぽかんと開いてしまった何か。
それはバンブルビーが居て成り立っていたもので、その穴を埋める事は難しい。
ラチェットは暫くジャズの言葉を待ち言葉を噤んでいたが、徐に口を開いた。
「恋しいのか、あいつが」
「あいつ、とは?」
「しらばくれるな・・・・・・バンブルビーのことだ」
ラチェットは押さえた声色で、その名前を口にした。
それにジャズは俯いたまま、あげていたバイザーをゆっくりと下におろし溜息にも似た排気音をゆっくりと漏らしていく。
バンブルビーが地球に行って以来、ジャズの雰囲気は何処となく違うように見えた。
そして、自分たちも何処となく。
人数が少ないからとかそういう問題ではなく、彼がいたことでどれほど変わってきただろう。
ジャズも、表面上明るく振舞っていても少しの不安定な気持ちが滲み出てきている。
「長年一緒にいれば、そういうことぐらい分かるさ」
「こりゃ参った」
空笑いするジャズの音声が震えていることに、ラチェットは軽く唇を噛み視線を逸らした。
「けど、俺達がどれほど思っても、あいつはどうだかわからないさ。
俺は今あいつに会いたくて会いたくて仕方がないんだがな」
広いスクリーンを軽く小突いて地球を指差す仕草に、言葉が詰まった。
募るのは思いばかりで、気持ちは届いてはくれない。
そして今こうして目に見えないことがとても不安で、焦るばかりで。
「なぁ、ラチェット。俺、あいつに言ってことがあるんだ」
「何をだ?」
「結構前だけどな。あいつな、一人で縮こまって震えてたんだよ」
その時何をしてあげれば分からなくて、おどけて振舞ってやることしか出来なかった自分が其処にはいた。
滅多に一人で抱え込むような事はせず、明るい姿を見せてきたバンブルビー。
「きっとあの時、あいつは暗闇ん中にいたんだ。不安で、哀しくて」
だから、側にいてあげたくて、一緒にいて。
「今思うと、あいつが俺たちにしてきてくれたことやっただけかも知れないな」
「そうだ、な」
きっとその時彼に向けていたのであろう笑みが酷く自愛に満ちていて、こんな表情をするものかとラチェットはつかの間考えた。
「あいつは・・・・・・」
「・・・・・・ジャズ?」
「あいつは、バンブルビーは。一人しか居ないんだ、代わりなんていやしない」
守りたい、そう思い続け誰かに武器を向け続けてきた。
たった一人の愛おしいと思うものの為に、心さえも閉ざして見せた。
けれどそれは望まないだろう。
「バンブルビーも。そして自分自身も」
ラチェットは暫く口を閉ざしていたが、沈黙に終わりを告げ続けてそれで?と聞き返した。
それにつられるようにジャズも小さく口の端を吊り上げてやっと笑いを零す。
「俺は決めたんだ。きっと守ってみせるってな」
彼が自分たちにしてきてくれたように。
気が付けば落ち込んだ背中を支えてくれ、無邪気な笑みを向け続けてきてくれた、支えとなった彼のように。
「もしあんときみたいみ、暗闇にいたら俺が俺が手を差し伸べて。
もし言葉が紡げないときは、俺があいつの言葉を受け止める、伝える。
それが言ってやった言葉、だな」
それくらいしかやってあげられないと笑う彼に、ラチェットは目を細めスクリーンを見つめた。
「大丈夫さ、あいつなら。どんなに離れていても」
「ははっ、そんなの知ってるさ。あいつを誰だと思ってるんだ?」
仮令言葉が交わらなくても。
その想いは届いている、側にいたいという気持ちもきっと。
「・・・・・・そうだな」
「さてとっ」
そう言って、もう一度青い星を見つめた。
「俺たちもやってやろうじゃないか」
あの星の為に。
そして、貴方の為に。
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