乾いたような空気を少しだけ吸い込んで、溜めた息をつかせた。
久し振りに踏みしめた大地はなんともこざっぱりとうべきか、それとも寂寥どいうべきか。
どちらにしろ代わりがないが見渡しても何もないのである。友が地上へと足を踏み出すと、赤い砂が煙のように舞い上がる。
何処を見ても赤が広がっているのだ。
空も、大地も。

「しみったれた星だな、何も見当たらないぜ」
辺りを見渡していたが興味あるものが発見されなかったのか、ジャズは早々と船の中に戻っていった。
ソレを見てラチェットは軽く肩をすくめ呆れ気味に鼻を鳴らす。
「オプティマス、暫くは此処で休息をとらなければならないのだが」
「あぁ、船の修理が大事だからな。・・・ジャズは仕方がないだろう」
何も無いとつまらなそうにしている彼に船の修理が終わるまでなんて言ったら、どうなるか分からないからな、と冗談交じりに告げる。
アイアンハイドの方はというと、腕が鈍ってきたと告げて船の横で一人訓練をしている様子だった。
ラチェットは黙々と船の修理に取り掛かろうとしていて、オプティマスは恐る恐る軍医に尋ねる。
「ラチェット、どれ位かかりそうなのか?」
「あぁ・・・多分そこまではかかりませんよ。残りの船員にぐちぐち言われない程度の時間ですから」
「よろしく頼む」

さてと・・・でも言うようにオプティマスはくるりと後ろを振り返った。
見た限りではこの星には何もないし警告信号も表れない。
安全といっていい星なのだろうけれど、それは見ただけでは分からないこともある。そう判断した上でくだした結論を実行する事に決めた。
「ラチェット、少し辺りを調べてくる。何かあったらチャンネルで知らせてくれ」
「分かりました、気をつけて」
「うむ」

そうして歩みを進めようとすると後ろから誰かが走る音が聞こえてくる。
その軽い足取りはきっと彼だろうとこみ上げる気持ちを押さえ込んでゆっくりと振り返る。
そこにはやはり思ったとおりの人物が此方に小走りで近づいて来ていた。交わる視線がもう言葉を表現している。
「行きたいのか、バンブルビー?」
こくり、と小さく返事が返ってくる。
「そうか・・・・・・では行こう、バンブルビー」
決して油断してはいけないのだが、その時の彼の嬉しそうな表情を見ればそれは薄く和らいでしまうのだった。







斥候としての素質かと好奇心旺盛な性格からか。
唯無限に広がる砂地を、バンブルビーは興味有り気に見つめながら歩いている。
振り返りながらその様子を見ていたコンボイは独り言のように短く話した。
「何もない星だな・・・・・・」
今まで色んな星に着陸してきたが、ここまで侘しいと感じた星は無かった。
流石に此処まで来て何も無いのだから、これ以上歩みを進めても意味は無いと完結に判断する。
しかし、後ろに居るメカノイドはソレをどう捉えるだろうか?
「バンブルビー。どうする、戻るか?」
一応の選択肢として彼に尋ねてみたがやはり結果はそうなのだろう。
まだ行きたいとでもいうように、オプティマスの腕を後ろからぎゅっと掴んでくる。

確かに、どうせあちらに戻ってもやることは大して無いし、出発するわけでもない。
ソレならば彼につきあっていた方がいいだろう、と判断をした。
「よし、お前の気が済むまで私が付き合おう」
そういうと嬉しそうに電子音を鳴らし、オプティマスの横を駆け向け走り出した。
そして振り返り手を振る姿に柔らかく微笑んで彼の後に歩みを進めていく。









暫く先を進めていると、バンブルビーがゆっくりと足を止め、そのままじっと先を見つめていた。
どうかしたのかと、歩幅を早め彼の後ろに立つとオプティマスはその光景に目を細めた。
きっと彼も同じ反応をしているのであろう、今まで何もなかった場所に現れたその光景。
バンブルビーは徐に其処を指差す。
「・・・・・・行きたいのか?」

ぎこちなく頷く姿を見て、ゆっくりと同意するように首を縦に振った。
自分も、見たかったのである。

あの不思議なモノを。















遠くから見てみていたものがどんどんと近くなっていき、それがかなり大きいものだと判断した。
それは真白で、崩れかけた建築物。
よく見てみれば様々な彫刻や文字が彫られているが、赤い砂にやられて風化が進行してしまってよく分からない。
バンブルビーは辺りを見回しながら恐る恐ると手を触れていた。
なぞるように触れただけなのに、まるで砂のように削られてしまう脆さはどれ位古いものなのかを物語っている。

中に足を踏み入れると、そこには唯一つ。
天井まで聳え立つ、羽のような形をしたオブジェが中心にあるだけ。
しかしそれは、守られているかのように崩れることなく、そのままの美しい原型を留めているままのようだった。
バンブルビーは、徐に後ろへと下がる。
『オプティマス』
滅多に使わない通信が、雑音と共に聴こえてくる。
『どうした。バンブルビー』
『何故』
まるで、震えるように伝わる言葉。

『何故この星は独りぼっちなんでしょう?』

広大な星の上に築き上げたのであろう文明。
しかし今は、何も残ってはいない。この場所さえも、何の為にあったのかかも分からない。

オプティマスはふと、自分の故郷を思い出した。
懐かしい思い出、友、場所。
そして、忌々しいほどの戦いの数々。
全てが、自分の星を破壊へと導いてしまっている。
「・・・・・・」
唯、唇を噛んだ。
自分は、このままでいいのだろうかと。


バンブルビーは、そっとそのオブジェに近づいていく。
オプティマスは何があるか分からないと彼を止めようとしたが、言葉は出なかった。
そこに手を触れ、唇を寄せる姿が、思考に焼きつく。

『オプティマス』

聞こえる呼吸音を、そっと落ち着かせた。

『まだ、この星は生きています』
仮令、そこに命あるものがいなくても。仮令、何があっても。この星が生きようとしているのならば。

『おいらたちの星だって、生きている』
哀しいほどの戦いがあり、沢山の友が死んだ星。それでも、愛する星は今。

『生きているんです。星も・・・・・・おいらたちも』
「バンブルビー・・・・・・」

彼もまた、多くの事を抱えている。
あんなに小さな身体で支えきれない大きなものを抱えながら、あんなに強く。
想いは一途で。




ふわりと、今まで感じる事のなかった風が頬を掠めていった。
まるで生きていることを示しているように、それとも先人を探しているかのように。




小さなメカノイドが、自分に精一杯、しかし優しく自分を包み込んだ。

『大丈夫です、オプティマス』
「バンブルビー」
『おいらたちは、生きているから』
震える掌を、彼の身体を抱き寄せるようにして誤魔化した。
彼の優しさが、酷く心地よくて。
「・・・・・・あぁ、大丈夫だ」











その星に祈りを捧げる者がいる限り。
この星は、行き続ける。























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