もうどうにでもしてくれ









Awkwardness










音声センサーに入っているのは、船の振動音と目の前で繰り広げられている話し合いの声。

アイアンハイドはオプティマスによる今後の行動等についての話し合いに混じることなく、遠くから壁に寄りかかり話を聞いていた。
他はというと、ジャズは皮肉を漏らしながらも自分の意見を述べていたし、ラチェットに関しては言うまでもなくしっかりと今後についての対策を練っていた。
そして話に混ざらない自分に気付いたのか、ジャズが不満そうに言葉を漏らす。
「アイアンハイド、お前も混ざれよな。こう見えて大事な計画を練ってるんだ」
こう見えては余計だとラチェットに小突かれるジャズを視界から外した。
自分は決して悪い事をしている訳ではないし、口を挟む必要さえなければ今は何も語る事もない。
発言が必要なときこそ語るべきものだと、自分自身で思っていることだから。

しかし、つっかかってこない自分を不信に感じ取ったのか次なる愚痴を零そうとジャズが口を開きかけたその時、今まで口を挟まなかった彼がその場を収めるように割り込んできた。
「アイアンハイド、もしよければバンブルビーを探してきてはくれないか?彼にも参加してほしい話があるんだ」
オプティマスのその発言により辺りは一瞬だけ静まり返った。
その言葉の持つ意味は、バンブルビーを探すがてら、この場を離れても良いということだろう。
その助け舟に感謝しながら、ジャズがその意見に愚痴を洩らしている様子から、きっと話し合いの結果が出た後散々意見を言わされる羽目になろうと憂鬱気味になる。

そう思いながらアイアンハイドは軽く頷きその場を離れた。
















小さく揺れる船の内部には慣れたもので、自分の足取りがふらつく感覚はまずない。
寂寥で包まれた薄暗い廊下をゆっくりと進み、ある一室に足を止める。

それと同時にドアが開き、ゆっくりとした足取りで中に入ると予想通り目的の人物の姿を視覚センサーがキャッチした。
彼の方もまた、自分の存在に気付き一瞬驚いたように振り返るが、警戒する必要がなくなったか、直ぐにもとの表情に戻った。

何も言わないままゆっくりと彼のほうに近づく。
静かに歩いているはずなのに、船内が静寂で包まれているせいで足音がやけに大きく響いて聞こえた。
スクリーンから見える宇宙を眺めている彼の後ろに付くと、其方の軽く振り返り見上げた目線と見下ろした目線が自然にぶつかった。
彼の真っ直ぐな目が見れなくて、誤魔化すように咳払いをし上を見上げる。
「何をしているんだ」
その問いかけにバンブルビーは間を入れることなく、景色ともいえよう宇宙を指差しスクリーンに手をゆっくりと這わせた。
その行為は『スクリーンから星を眺めていた』という聞かなくても分かる答えであり、アイアンハイドは無造作な質問をしたと相手に聞こえないようにため息をもらす。

その後、何を話すわけでもなくゆっくりと時間が流れる。

オプティマスの『バンブルビーを探してこい』という事は実行できた。
後は彼を連れて行けば済む話なのだが、生憎自分自身まだあそこの場所に戻りたくはない。
それに彼は未だに空虚な宇宙を見つめるばかりで、それを邪魔するのにも気が引けた。
手をスクリーンに添え、少し首をかしげながら上をみる姿。青い瞳が揺らめいていて。

それを見て、アイアンハイドは一瞬、スパークが高鳴るのを感じた。
この自分の一瞬の変化に、正気に戻れとでもいうように首を横に振る。

駄目だ・・・・・・


自分の脳内プロセッサにその言葉だけを刻み込んだ。
アイアンハイドはバンブルビーに対する気持ちがよく分からなかった。
彼は長年一緒に歩んできた大事な仲間だ。
それなのに彼だけは他のジャズやラチェット、勿論オプティマスのように振舞えない。

そして彼には今のような、こう、違う思いを抱いてしまうのだ。
それをまだ信じたくなくて、やるせない気持ちで一杯になる。


するといきなり_ではないが不意に腕を捕まれ思わず身構えした。
はっとして視線を下ろすと、バンブルビーが心配した様子で此方を見上げている。
その表情は不安気で、しかしそれにも見とれてしまう自分がいる。
冷静になろうと一息置くが、こんな思いを抱く自分にいらつき舌打ちをしてしまう。

その行為が更にバンブルビーを不安にさせたのであろう。
アイアンハイドの掴まれた腕に力がこもり、バンブルビーが背伸びをしてこちらを見上げている。
『アイアンハイド・・・何かあった?』
普通の日常ではよほどの事が無いと、あまり使おうとしないデジタル通信チャンネルによりメッセージが送られてきた。
それに対し、軽く首を横に振る。
すると徐に立ち上がり、顔を覗き込むように背伸びをする彼。
距離がいっそう近くなり、そう思ったら手をそっと握られその行為にすらスパークが高鳴るのを抑え切れなかった。

『さっき、辛そうな顔をしていた』
「してない」
『してたよっ』

その顔は必死で、自分は随分悪いことをしているなと思う。
同時に、不思議な感情に襲われた。

どうしてこんなにも自分を心配し気遣ってくれるのだろうか?
仲間だからか
それとも。





何も喋ろうとしないアイアンハイドにバンブルビーが呼びかけようと再びチャンネルを開こうとした瞬間、身体が引き寄せられ思わず身が強張る。
何をされたのかを判明するまでさほど時間はかからなかった。
アイアンハイドはバンブルビーを引き寄せ腕の中で抱きしめていた。
少し驚いたように電子音を鳴らす彼に対し、更に驚いていたのはアイアンハイド本人である。
自分のしてしまった勝手な行為に、すぐにバンブルビーを腕の中から離した。

「・・・・・・すまない」
単発的に述べた言葉を否定するように小さく首を横に振り、一歩戸惑いながら相手は後退しする。
「その・・・バンブルビー_」
先ほどの行為をどう説明すれば良いか分からず、自然に伸びた腕が宙を彷徨い先ほどの事を説明しようとしたその時である。




「二人共此処にいたのか、話し合いが終わったぞ」
良いタイミングと言うべきか、それとも空気が読めないと言うべきか。
揚々とした声の主はオプティマスであった。まさか直々に来るとは思っていなかった。
多分残りの二人がオプティマスに様子を見てきては?とかなんとか言われたのであろうと察したアイアンハイドは聞こえないように又舌打ちをした。
こういうときのオプティマスのタイミングのよさはピカイチだ。

そんな事も思われているとも知らず、オプティマスは淡々と話を進め、自分の後ろに視界をうつしている。
「バンブルビー」
優しくオプティマスに名前を呼ばれると、先ほどまでのあの空気は何処へやら、いつも通りの明るく振舞う彼の姿。
それに安心したように小さな溜息が聞こえた。
「さぁ行くぞ二人共。混ざらなかった分たっぷりと聞かせてあげようではないか」
軽く笑いながら部屋を出て行くオプティマスの後姿を追うように小走りになる小さなメカノイド。何
故か自分だけついていけないやるせなさに嫌気がさした。しょうがなく部屋を出ようとすると、先ほど行ったと思われた彼がピョコンと顔を出してきたものだから反射的に驚く。
どうしたのか尋ねる前にチャンネルから音声が流れ込む。

『アイアンハイド、おいら・・・』
「・・・なんだ?」

戸惑い気味にメッセージが送信され、暫くして決意したように流れたメッセージ。




『おいら、アイアンハイドの為なら何でもするからね!!』





それが受信された瞬間、彼は走っていってしまった。
少し考えて、不意に笑いがこみ上げた。
多分彼のことだ、先ほどの事により自分が重大に悩んでいると思ったのだろう。
それを解決してあげたいと思ってあんなメッセージを送ったと思うとこそばゆいような感情が出てくる。

「何でもする・・・か」


確かに自分は悩んでいるのだろう、もしも彼が助けてくれるのならば一生悩まなくて済むと苦笑してしまいそうになる。





アイアンハイドは先ほどよりも少し軽い足取りで仲間の待つ部屋へと足を運んだ。






























―おまけ―
「アイアンハイド」

予想通り散々続いた話し合いが終了しアイアンハイドは疲れた様子であったが、バイザーが特徴な小柄な彼に呼び止められ嫌々に足を止めた。
しかし、視線をふと上げればその後ろにはラチェット、そしてオプティマスがいて3人揃って自分を囲っていた。
直感的に何かを感じ後退すると、じりじりと追い詰められる。
「・・・何なんだ、今日はもういいだろう」
降参するように手を挙げればそれはあっさりとラチェットにより下ろされた。

「なぁアイアンハイド。お前バンブルビーには何もしていないよな?」
ジャズが明るめに、しかしそれとは裏腹に表情は爽やかとは言えなかった。
「私が行った時、どうもバンブルビーの様子が違う様に捉えられたのだが・・・・・・」
続くように発せられたオプティマスの声は低く、背筋がゾクリとなるのを感じた。
このままではいけないと直感で感じ取り、そういえば何故そんなに問い詰められているのかと疑問が浮かび思わず鼻を鳴らした。
「待て、何故そんなに突き止める?俺はあいつには未だそんなに何も_ぁ」




ほんの、ほんのかすかに薄れた思考回路から先ほどの現状を思い出した。
そして、自分の今の発言に後悔と恐怖が募る。




「ほう、未だ、そんなに・・・ねぇ。そうか、アイアンハイド」
「ちょ、待て!ラチェッ」

自分の発言に後悔するのは遅く、低いトーンで話すラチェットの声がセンサーで感知される。
「それならバンブルビーに聞いてもいいんだぜ?優しく問いかければ何でも教えてくれるさ。俺になら」
「俺にならって・・・じゃなくておい聞け!!」
俺にならと態々付け足した彼に呆れながら自分の現状に滅多に見せない焦りを感じずにはいられなかった。
「それでもアレならいいのだぞアイアンハイド。この船のモニターを見れば後の事は・・・」
「あーー!!もう何なんだー!!」











その後、拷問に近い問い詰めをされて真白状態になっているというアイアンハイドを心配し、隣でちょこんと座っているバンブルビーを見て
あの3人が再びアイアンハイドを問い詰めてやろうと嫉妬した事は二人は知らない。






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