さぁ 敗者は勝者に楽しい遊戯を見せましょう





















軽快な足取りと軽やかな鼻歌を纏わせながら近づいてくる気配には、隠れる気も此方の様子を気遣う気も何もなかった。
今日は天気がいいなとか、ホイルジャックの手伝いをしようかな、なんていう気持ちも其方に行ってしまう。
BGMのような小鳥の囀りも、何を口ずさんでいるのであろうその鼻歌に混じり聞こえなくなっている。
机に向けていた身体を椅子ごとくるりと回転させると、光に反射するバイザーに照られ反射的に目を細めた。
その表情を見るなり悪戯っぽく笑う彼に溜息をつかす。



「今は勤務中では?怪我か何かでもしたのかい」
「全然。賢明な軍医さんのお蔭でぴんぴんしてるところさ」

目の前にある診察台に、両手で持っていた箱状のものを置いて、横にある手ごろな椅子を引き寄せ向かい合うように腰掛けた。
診察台だけが間を挟み、視線がぶつかる。
言葉は無く、ラチェットはこの困った彼の行動を伺っていた。

台の上にある箱から出された物は、規則正しいマス目で囲まれた緑色のボード。
互いに端の方に白黒で分けられたチップが敷き詰められている。
その並びに沿うように指でずらすと、静かに音を立てくるりと回る。

「ラチェットは白と黒、どっちが好みかい?」
「・・・・・・白」
「じゃあ俺は黒だな」
唯言われたとおり答えると、ぱちりとチップをボードの真ん中に白黒交互になる様に並べ‘お先に,と言わんばかりの笑顔。
「早く、白なんだろう。やってくれよ」
「・・・・・・あのなぁ」
「何か?」
「仕事はどうしたんです、それに、これは何ですか?」
「今はパトロール一回り終了とデータ整理終了その他完了した為コンボイ指令から直々に頂いた休憩中。
 それとこれはリバーシ、知らないなんて言わせないぞ。この前地球のテレビというやつで一緒に見ていたからね。それに」
「それに?」

「軍医さんは頭がきれる、楽しめそうだろう?君も_私も」

パチンと、乾いた音がした。
ふとボードを見ると2つずつ白黒であったチップが白2つ、黒3つに変わっていた。


「どうぞ、お次」
「・・・・・・私が先ではなかったのかい?」
「置くのが遅いから先にと思ってね、まぁ気になさらずに」
それでも負ける気は無いのだろう?と言われ、一つチップを並べ色を変えた。





「そういえばラチェット」
パチン

「何だね」
・・・パチン

「何か賭けてみないか?負けた方は勝者に」
パチン

「例えば?」
「そうだねぇ・・・エネルゴンキューブ。じゃ普通だなぁ、じゃあ罰ゲームなんかはどうだい?」
「それは司令官に一言浴びせてくるとかでは?」
・・・パチン

「ははっ、それじゃあ首がかかるな」
パチン
「出来ないだろう?」
・・・パチン

「あ、角とられたなぁ。流石軍医さん」
パチン
「そちらこそじゃないか、副官」
・・・パチン

「あんまり置くのに時間をかけるとアウトなんだぞ」
パチン
「ふむ、そうですか」
・・・パチン

「あ・・・・・・そこ埋められるとなぁ・・・・・・」
「どうしたんです、あんま時間かけると」
「アウト、何だろう?」
パチン
「さぁ、私には分からないが」
・・パチン






中央からじょじょに広がるチップはどんどんと範囲を増やします目を埋め尽くしていく。
手に幾らか持っていたチップも僅かほどしかなくてそれをそっと握り締めた。


ボードの上は不規則な白黒の並び、増えたと思ったら侵食されていく色。


「これ、本当に負けたら何をしようか?」
「賭けるんじゃないのか」
「それじゃあ面白くないなぁ・・・・・分かったアレにしよう、あれ。決定」
「何のことやら」
「はははっ、知っているくせに軍医さん」
「さぁ?」













どちらが勝者か、何をしたかなんて。
それは頭の冴えた二人でしか到底理解できないものだろう。
















短文すぎやしないかい&ワケワカランでごめんなさい。

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