いっぱい いっぱい 思いをこめて









ーオマジナイー











「すまなかったなラチェット」
「いえいえ、コレも仕事ですから」

治療室から出てきたのはコンボイ司令官の姿、そして軍医のラチェットの姿だった。
「しかし皆あの程度の怪我で心配するとは・・・・・・」
「あれ程とはいいますが、我々から見れば大惨事な怪我に繫がるのですが」
「む、そうか」
先ほどデストロンからの襲撃でコンボイは崖から転落し、その後全員からの推し進めで診てもらった方がいいとなり治療していたのであった。
けれど本当に怪我の方はたいしたことはなく、ラチェット曰く流石だと告げられる。
「あ、それと今回はリペアのほかにボディチェックをさせてもらいました。指令の場合、診る所が多いものですからね」
溜息混じりにラチェットが言葉を洩らした。
彼もまた戦闘で疲れているはずなのにこうして念入りに診てくれるということは本当に頼もしく、感謝しきれないものがある。
言葉少なげに感謝の言葉を告げれば軽く笑みで返された。
「おかげで時間がかかりましたからね。貴方を心配する奴が出るかもしれませんから早く戻った方が宜しいかと」
「分かった。では失礼する」

彼が言ったように心配されているとは思わないが、取り合えず皆がいる基地の中心へと足を運ばせようとし、振り返ったときである。
奥の通路の端から顔を覗かせる小さな黄色い姿を捉えた。
此方へ近づくわけでもなく遠巻きに此方の様子を伺っているのか、気付いていないとでも思っているのかそわそわと顔を覗かせては引っ込め・・・・・・。

「バンブル?」
その様子を見て後ろからラチェットがくすりと笑い、くるりと部屋に戻っていった。
「では、私はここで」
「あ、あぁ」

ラチェットが戻り、廊下には自分と彼の姿だけが見えていた。此方の用が終わったのを見計らったかのようにひょこりと顔を覗かす。
可愛らしい仕草にマスク越しで微笑みながら、彼のいる方へゆっくりと近づいた。
そしてもう目の前にというところでちょこん、と彼が足元に出てきてその場に止まる。下を見下ろせばやはり落ち着かない様子で見上げる彼の姿。
「どうしたんだ、バンブル。怪我でもしたのか?」
視線を近づけるためにゆっくりとその場にしゃがみこんだ。
それと同時に先ほどの問いかけにバンブルは首を小さく横に振る。
ここら辺はそういう事情がなければあまり人が通らない通路なので、怪我をしたのかと心配したがそういうことではないらしい。
それではないのならどうしたのかと小首を傾げる。

「あの・・・・・・指令」
「ん?」
「その、えっと・・・怪我の方、痛くないですか?」

声色に含まれる不安の色。
あぁ、そういう事なのかとこそばゆい感情が溢れた。
多分バンブルは怪我の事を心配しているのだろう。実際崖から落ちたのを見たのも、治療を一番に進めたのも彼であったから。
こんな怪我などいつもの事でどうってことないのに、こうして心配してくれる優しさにマスクごしに笑みがこぼれる。
勿論リペアをしてもらったから痛みなど感じはしないが、ついつい悪戯心がこみ上げてきて先ほど直した箇所をそっと指差す。

「ここ、怪我したんですか」
「あぁ、先ほどラチェットが治療してくれたがまだ痛む」

こんな素直な子供に嘘をいうのも良心が痛むが、それに勝って心配してくれているという嬉しさがこみあげる。

「指令」
「何だい、バンブル?」
「おいら、指令の為にオマジナイしてあげます」
「・・・・・・オマジナイ?」
思考がそれが何かと考えがまとまる前にバンブルは此方に近づき例の腕の箇所にそっとてをかざした。



そして。








「指令の いたいいたいのーとんでけっ!」
「!」







思わず言葉が詰まる。そしてまず一番最初に刻まれた想いはただこの言葉だった。


か、可愛すぎる。

多分今の自分は誰から見ても危ない顔をしているだろう。
この時ばかりはマスク越しで良かったと心底安心した。

「どうですか?指令、痛いのとんでいきました?」

此方の様子を伺うように首を傾けて問う姿にぐっときながらも、平然を装うように笑ってみせる。
勿論、これもマスク越しでその行為など伝わるわけがないのだが。

そして先ほどオマジナイとやらをかけてもらった方の腕を大げさに動かして見せる。その様子をみて彼は目を瞬かせた。
「どうやらバンブルのおかげで痛みが消えたらしい。ほら、こんなにもしっかりと動いてくれる」
別に痛みなど更々無かったのだが、多分怪我をしていても先ほどのようなことをされていたならばそんな痛みなど吹っ飛ぶだろうと頭の片隅で考える。

頭を撫でれば嬉しそうに首をかしげ、こちらにじゃれついてくる。
小さな身体を座り込んで開いた脚の間に入れれば十分な空間にしっくりと着たのかちょこんと座り腕を抱きすくめる。
「でも良かったです、指令にオマジナイが効いて」
効かなかったらどうしようかと思いましたよ_と彼は言葉を続けた。
あれはスパイクに教えてもらったらしく、正直効くのか半信半疑だったらしい。
「けれどやっぱりスパイクは凄いですよね!こんな事知ってるなんて」
「ふふっ・・・そうだな」
彼の子供らしい性格と時折見せる大人びた考えの入れ替わりように思わず笑うと、彼が不思議そうに顔を見上げる。
「しかしスパイクも凄いと思うが、こんな事が出来るバンブルも私にとっては凄いぞ?」
「え、本当ですか?」
「あぁ、勿論。凄いぞ、バンブル」

彼が抱きついている腕の方の手をそっと動かして彼の頬に指を走らせながらいうと、褒められた嬉しさか頬を這う動きがこそばゆいのか小さな笑い声を上げる。
そしてくるりと此方に向き合い、自信を含めた声色で尋ねられる。
「じゃあ指令、他にいたいところはありませんか?」
「他にか?」
子供というのは褒めれば何度でもそうしたくなるものなのだなと再確認された。
ここで無いと答えてしまえば彼ががっかりしてしまうかも知れないし、それに。

「この戯れも出来なくなってしまうな」
「何です?指令」
「なんでもないさ、じゃあ早速お願いして宜しいかな?名医さん」
「はーい!」

誰も通らない廊下で、この微笑ましい光景はこの後起こったデストロンの再襲撃が始まるまで続いていた。













先ほどとは打って変わって治療室は忙しそうにがやがやとしている。

再度のデストロンの襲撃で怪我を負ったものが多くいたのだがラチェットとホイルジャックのお蔭で着実に治療を終えていく。
そしてリペアを終えたものは他の仲間が終わるのを待っていたり警備に出たりと始めている事、コンボイの目にあるものが止まり、思わず頭を抱えた。
それはバンブルがリペアを待つものに先ほどまでやっていたオマジナイを実行しているからである。

「こらバンブル、あっちにいってなさい。後でじっくり診てやるから」
「おいら、怪我してないもん。それに、治してあげるんだもん」
ラチェットの押さえを聞かせた声とは対照的にバンブルはむっとした様子で返事をする。
その様子を目の前で繰り広げられているハウンドが仲裁に入ろうとするも、ラチェットの回路を切るぞ発言により黙る事しかできなかった。

「じゃあそこをどきなさい、私が軍医だ。お前は大人しくしてなさい」
「でも指令は治ったって言ってたもん!」
「分かった、じゃあ後でじっくりとご披露させていただこう。だから今は大人しくしていなさい」
バンブルが膨れっ面になったと同時にラチェットと目が合う。まずい・・・と思ったときにはもう遅くラチェットは此方へ近づいてきていた。
「子供は覚えると飽きるまでやり始める、それが貴方に褒められればなおさら」
「アレを聞いていたのか?」
「此処の前で戯れられては嫌でも音声センサーに入ってきますよ、それにしてもどうしてくれるんです」
「?」

ぽん、と肩に手を置かれたときに一気に悪寒に襲われる。ラチェットの後ろから来る視線がやけに痛い。
「私の治療を拒むようになったら指令」
どうなるか分かりますよね?と低く囁かれ、反射的に激しく首を縦に振った。
すると後ろの方からホイルジャックがラチェットを呼び寄せたおかげで彼がふっと後ろから離れていく。そして思いついたかのように足を止めた。
「指令。アレ、止めなくていいんですか?」
「な、何をだ?」
ラチェットが振り返りふっと鼻で笑う。
「早く止めないと何をしでかすか分かりませんよ?」
特にマイスターが何を教えるか・・・と言われた瞬間何のことかが直ぐに分かった。
ぐるりと振り向けばマイスターがバンブルを近くに呼び寄せている。







「バンブルー!!今すぐ離れろー!」






その結果必死になりすぎてコンボイが腕を本気で痛めバンブルのオマジナイが始まったのも
マイスターがソレを見てお腹を押さえて笑っているのもラチェットが怒りモードになっているのも言うまででもなかった。


















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