どっちもどっちなんだから
駆け引き
最悪だ。
がちゃがちゃと部品をあさりながら、ブリッツウィングはいらつきを隠せず舌打ちばかりを繰り返す。
先ほどまでボロボロだったボディは、ぶつくさと文句を垂れながらも修理をしてくれたあの昆虫野郎に修理を頼んだので見た目の損傷は隠せている。見た目わな。
やはり其処はあいつの嫌な性格が出まくっていて、治したのは表面ばかりで肝心な中は気持ちがいいほどに手を抜いている。
もしこれが本当の腕前だったら可哀想になるくらいひでぇもんだ。
それに気付いたのは2回目の出動のとき。
サイバトロンとの打ち合いに油断していたせいであの赤い狂った戦車野郎にひとつ浴びせられたんだよ。
けどこんなへなちょこ砲弾浴びたくらいで、このブリッツ様に
ダメージなんかあるわけないはずなんだが、今回は違った。
砲弾が回路に響き、面白いほどに方向感覚が機能しなくなった。
眩暈がしたときにはは敵の攻撃をもろ直撃。
もうやってられっか。
いち早く基地に戻り、ふらふらしたまま(これは俺のせいじゃない、あいつのせいだ)と心の中で悪態をつきながら修理室でリペアをはじめた。
しかし普段そんなことはしない為慣れない作業のせいでもう哀しいやらむかつくやら感情が込み上げる。
けどもう昆虫に頼むのは絶対しない。てかそんとき頼んだ俺、心からドンマイ・・・・・・。
そんな思いをしながら手の届かない修理箇所にイラついているときに通信が一本入った。
この声の主を想像すると通信に出たく無いが、そんなわけにはいかない。
「・・・・・・こちらブリッツウィング」
『ずいぶん出るのが遅いではないか』
「申し訳ありません」
『至急南シールド内にいけ、あのサイバトロンどもが場所を探り当てたようだ。遅れたらただじゃすまないぞ』
「しかしメガトロン様っ、まだ修理が』
『文句を言うな愚か者めが!!さっさと行け!!』
罵声とともに通信が愛想なくぶつりと切れる。通信回路がまだその声を引きずりエコーして、まるで嫌気に、そして気持ちをどんよりと落ち込ませる。
これでもう3回目の出動命令だ。心も体もぼろぼろでもう嫌になるしかない。けれどそれは仕方ないことだと腹はくくっていた。
なんせあの我らがデストロン軍団の大帝メガトロン様を裏切ったからだ。
だからこうして出動にするのはのは自分一人だけではない。
現在。南シールド内。
どもーブリッツウィングでーす。今戦ってまーす。
・・・・・・なんてな。
今、サイバトロンと3度目の交戦を繰り広げているのはスタースクリーム、ビルドロン、そして自分。
これって本当はいろんな意味で体罰に近いのではないか?と考えた瞬間ミサイルが頬を掠めた。
先ほどのメガトロンからの通信命令に逆らったらどうなるか馬鹿ではないので分かりきっている。
不満は在りながらもふらりとする体を起こして戦いの場に足をはこんだわけだ。
こんな状態でまともに戦えるはず無い。しかもデストロン軍団なんてたくさんいるのに戦っているメンバーはほぼ同じだなんて無茶もある。
今更ながらもう誰もがくたくただった。
好きで戦っているわけでもないし、もう懲りているのに大帝がここまでさせるとはよっぽどの事をしたのだと珍しく反省さえもした。
・・・・・・って、まてよ?
スタースクリーム、ビルドロン、俺。これ現在メンバー。
反乱起こしたのはスタースクリーム、ビルドロン、俺・・・そして・・・。
やっぱし間違いじゃねぇよな・・・・・・。
一人足りネェじゃねぇかよっ!!!!!
ああああ!やられたよ俺。
いろんな意味で。
で、又現在。どんまい生きてるぜ。
流石に3度目の失敗となると(ということは負けたということで)、流石に休息の時間が与えられた。
ボディはさっきよりもボロボロ、エネルギーは切れ掛かっている。ふらふらする足取りをなんとか気力で耐え、エネルギー補給室へと向かった。
そして扉が開いた瞬間。
「お」
「げっ」
今一番会いたくない奴と出会ってしまった。
先客一名、しかもそいつは。
「よぉブリッツウィング。久し振りじゃねえか」
「・・・・・・未だ48時間しかあってない日から経ってないぜ・・・・・・アストロトレイン」
「そんなに経ったのか?教えてくれてありがてぇな」
くつくつと笑うこの男、こいつこそがそうだ。
出動という名のお仕置きを3回も出ず、何より裏切りを提案した第一人者。(俺もだが)
そのこいつが何で自分より先にエネルギーを補給しているのか。薄暗闇でも表情は見えにやにやとこっちを見て笑っている。
いらっとした怒りにまかせてこいつをぶちのめそうかと思ったが、自分にそんな余裕はなかった。
本来の目的はここでエネルギーを補給する事。今の状態で喧嘩にを挑んでも無駄で返り討ち、先にチャージした相手の方が勝つに決まっている。
そんなことで面白く思わないブリッツウィングのことをただぼけっとたっているようにも見えたのかアストロトレインは軽く首をかしげた。
「何しにきたんだよ、補給じゃないのか?」
「・・・そうに決まってるだろうが、阿保」
なるべく冷たく表情に怒りを含んだ声色を向け、アストロトレインの隣にある補給スペースに腰を下ろした。
原則、つめて座れという約束を破る事はできない。こういうことはデストロン軍は細かく守らない者もいそうだが
文句なんか言えばたじたじにやられてしまう。更に大帝にまたこき使われるだけだ。
どうにかしてこの法則は変わらないものかと期待しながら、自分もエネルギーを補給し始めた。
じんわりと身体に伝わる熱。無意識のうちに溜息が漏れ、体中がじょじょに楽になっていく。
「なぁ」
「・・・・・・」
「おい、無視かてめぇ」
はいはい、無視してますよ。
こっちは気分よく仕事疲れをいやしてるっうのに話を聞いてるほど暇じゃねえん・・・
「・・・・・・んだよ」
急に掴まれた腕、しかも思い切り男らしい掴み方だったので関節が不自然に曲りそうだった。
「いてぇだろ。離せ」
「お前」
じっとくる視線。何を考えてるか全く分からない。
「はやくしゃべりてぇんならさっさと話せ、それかこの手をどけろ。邪魔だ」
怒りを含んだ声色でにらみを聞かせても、あっちは気に留める様子がない。
悩んだ(というかただ本来の目的を忘れていたかの)ようにしていたが、やっと言葉が見つかったのか。
閉じきっていた唇がやんわりと開いた。
「この傷、どうしたんだよ」
「あぁ?これか?聞きてぇのかよ。てめぇには関係ないかも知れねぇが実は大いに関係があるんだ。知ってるか?」
「リーダー様の命令、だろ?」
「よーく知ってるなぁ・・・・・・いなかったくせによく言うぜ」
はん、と鼻を鳴らし最大の皮肉でも言うかのように言葉をなげかけ、手のひらをひらひらと降りその顔を見ずに話した。
それにそうだ。
「大体、お前は俺を裏切った」
勿論、返ってくる言葉なんか期待してなかった。
むしろそのままどんな反応をするかなんか興味すらわかない。
ただ自分の不満をぶつけてくるだろう反発の為の避け方なんて考えたが。
けれど、違った。
「そうか」
・・・・・・は?
・・・・・・どういうこった?
思わず素で反応してしまった。
返ってきたのは言葉の暴力でも、曖昧なごまかしでもなんでもない。
飛んでくると思ったのはミサイルでもグーパンチでも暴言でもない。
そうか、の一言だけ。
今まで見ようともしなかった相手の顔を横目でみると、きょとんとしている。
(なんなんだ、こいつ)
今までの横暴で我儘で自己中心的で威張りってばっかだと思っていた奴が、どうしてこんなに幼い表情をみせるのかと思わずブリッツウィングは固まった。
それに暴言ひとつ言いもしない。
そんな長々見る予定ではなかった顔も、アストロトレインが此方を見ていないという理由もありじっと横顔を眺めていた。
・・・・・・案外綺麗な面しやがって・・・・・・
「 ぇよ 」
「・・・ぇ、あ・・・あ?」
急な話し出し。じっと顔を見てしまっていたということに焦り、自分の行動というか視線に気付かれてしまったのかと挙動不審になりかけたがそれのことでは無いらしい。
けれどそんなことも気にならないほど。
「しかたねぇよ。デストロンだからな、許せ」
「ぉ・・・・・・ぉぅ」
思わず、許してしまった。
まるであいつの声が聴覚センサーを擽るような、惑わせるように聞こえて。
少しだけ幼い表情を残し苦々しく笑うその笑みと、口元を飾る唇の弧に視線がいく。
・・・・・・って。
なんで俺ほだされてんだ。
けど仕方ねぇんだ、と自分に言い聞かせた。
そうだろう?急にいつもつっぱってるやつが妙に素直になったら今日は許してやろうってなりったりするじゃねぇか。
あと、きっとエネルギー補給で気分がおかしいんだ。
「なぁ、ブリッツウィング」
「んだよ・・・・って、おいっ!何のつもりだっ」
焦った声色をあげたのは他でもない。
絶対驚かないほうが可笑しい、この状況は。
「いいだろ?ちょっとくらい」
隣に座っていたはずのアストロトレインはまだエネルギー補給中で身動きが取れにくいブリッツウィングのひざの上に急に乗りだしてきた。
胡坐をかいていた足のうえにはすんなり座ることができ、両足を広げるように相手の太ももに体重をのせてくる。
はたからみればこんなところで不自然にもこんな風に向かい合っているなんて怪しいにきまっている。
どけろといいたかったが唇にかさなった相手の人さし指に遮られ、(しーっ)と囁かれたら何も言えなくなってしまっていた。
「遊ぼうぜ、久し振りだろう?」
「な、何がだよ」
「しってる癖に、意地悪だなお前」
くすりと笑いながら頬を擽る動きは本気だと表している。
元々薄暗い室内は仄かな紫色のライトだけで照らされていて、それが自分の上にまたがるアストロトレインの背にかかる。
見下げる視線は反発するように、けれどしっとりと濡れているようで艶やかだ。
どかすつもりでわき腹に添えた手も、まるで腰を支えてあげているかのようにも思えてくる。
指先は未だ、煽るかのように顔中を這い回っているというのに。
「少しだけでいいからよ」
そしてやっと、指先でないものが唇に当たる。近くなる顔がぼんやりとにじみ、軽いと息がかかる。
本当に少しだけの接吻はまるで子供同士のよう。
けれどそれにも興奮するかのように体の熱がこもっていくのがこっちでも分かった。
「てめぇ、変態か」
「どう思う?」
その返事はいかにも主導権を握る余裕をみせているようで、この場にいたって未だ自分はこいつの下なのかと思うとむかついて仕方ない。
道具程度にしか扱ってもらえていないとなると、どうしても上になりたいという感情がこみ上げる。
いつまでも馬鹿にされるなんて、しかも欲求不満の道具なんて勘弁。
余裕を見せるアストロトレインの脇に添えた手を急性に動かすと、今までとは違った動きに大げさに体が震えるのが分かる。
「何す、ぅあ」
文句を言おうとした言葉は無意味な語だけを残す。柔らかく壊れ物を扱うようにすわりと撫で上げてもみせた。
どうだ!と勝った気で言おうと思った言葉は、ブリッツウィング自身で止めることになった。
それは触っているアストロトレインの体に気づいたからである。
その、いやらしい意味ではなく傷の外傷だ。ごく最近、いや、本当に新しく出来たような傷ばかりが体にある。
しかし3回の出撃に参加していない奴がどこでこんなものをつくってくるのか?
もしいっていなかったとしたらどこで作る?こいつがそんなへまをやらかしそうな奴でもない。
暫く手が止まっていると、疑問を持ち始めたのはさっきまで遊んでいてくれたのに止めてしまったことに不満をもったアストロトレインだった。
「・・・おい、どうしたんだよ」
「・・・・・・」
「ブリッツウィング?」
「お前」
「な、んだよ」
するりと指先が動いたのは傷口のところだった。
ざらりと引っかいたような感触に両方とも不快感をもち、何かを悟ったかのようにアストロトレインからはあぁ、と納得したような声を出した。
「どこで作ったんだよ、これ」
「たいしたことじゃない」
「どうしたんだ」
やけにしつこい。
そう面倒に思いながらも隠すことではないと自分で納得をする。
「ちょっくらメガトロン様に頼まれごとされたんだよ。惑星の探索調査だが、行ったのは45時間前でそりゃあもう色々あったさ。エネルギー切れで死ぬかと思ったしな」
「お前、そんなところいってたのかよ!」
「ああ、まぁメガトロン様を怒らせた罰だと思ってしぶしぶ行ったけどな」
そういうことだったのかと、改めて考え直した。
今思えば餓鬼みたいだった自分の怒り。
誤解してたのかと軽い罪悪感にかられなんだかんだで結局どうでもよくなってしまうのか。
言葉にして(お前だけ任務出てなくて卑怯だと思ってた)とか正直に言えるわけでもなく。
けれどやはり少し悪いことしたと反省し、何事も無かったかのように再び触れ始めた。
先ほどは傷を確かめるように撫でていたが、今度はそれにその跡にそって触れるか触れないかという淡さでなぞる。
「なぁ、お前。もしかして心配とかしてくれたのか」
「するわけねぇだろ、気になっただけだ」
「気にしてくれたとは嬉しいじゃねぇか」
「・・・うるせぇ」
いちいちつっかかる言葉に自分の不利さを知ったのか、誤魔化すように手で相手の体中を這い回った。
それに体は反応を示し、くすぐったさに腰がもぞりと動く。
再び始まった動きに疑問もどこかへいってしまったかのように、相手もこのときを楽しみ始めたらしい。
「・・・・・・好きか?触るの」
「別に好きじゃねぇよ」
「本当か?」
今度はこちらも、というようにすっと手が伸びて胸にまとわりつく。
しなやかに動く手はまるで違った生き物のようで、自分の動きとは反対に何気に強い押しであった。
負けてられないとばかりに余裕を持って上に乗るアストロトレインの頬をなぞった。
「好きだろ?触るのも、されるのも」
「・・・どうだかな」
バイザー越しにだが、お互いの目が合う。
自分を見下すような視線は先ほどよりもしっとりとしていて、こんな顔もするのかと関心した。
そして徐々に互いの距離が近くなり、また唇が触れ合う。
口の中を分け入り遊び始める舌に答えれば甘ったるい息が漏れ出す。
暫く堪能したら、唇をはなす。名残惜しいのか両方の口を糸が結び、お返しにというように唇をなめられる。
こんな風に甘えるこいつも悪くないと思いながら、意地悪く背中の翼の下にある隙間に手を入れた。
すると案の定、情けない悲鳴が上がり初めての抵抗をみせる。
それに自分はにやりと笑い、反対に相手はにらみをきかせた。
いつもなら凄味が利いているその表情も今となっては違う意味で効果的面になっている。
「卑怯だぞ」
「何がだ?」
「さわるの・・ぅぁ_っ!」
勢いよくアストロトレインの太ももを広げれば驚いた反応がかえる。
言葉にとしてならなかった文句をそのまま押し殺して耐える様子が堪らない。
そのまま強引に顔を寄せると視線が外れてしまう。
「お前から誘ったのにそれはねぇだろう、誰にでも媚びんだろ?お前」
「ち、違うっ!!」
「本当かねぇ」
正直、ここでそうだとか返事されたらどうしようかとなんて考えた。
けれどそういう風に返ると思ったのに意外に素になったもので逆にどうしようかだ。
仕方なく恥ずかしそうにこちらの肩口にあごを乗せる奴の頭をぽんと撫でればびくりと体が揺れる。
こんなように、こいつもなるんだな。
いつもならどす低い声なのに今じゃそんな欠片もない。
横暴で暴れだしたら手がつけられないのに今は自分の腕の中。
「・・・・・・可愛いな、お前」
「・・・へっ?」
ぽかん、という反応。そして自分も。
何言ってんだ俺
「お、おいブリッツう_うおっ!!!」
ごつんと鈍い音を立てて頭をぶつけたアストロトレイン。
その原因はひざの上に乗せてくれていたブリッツウィングが急に立ち上がったせいである。
さすがにこの後の行動を期待していた方にとってこれはイラつく。せっかくの甘い雰囲気をこわされたというべきか。
「くそっ、てめぇ何しやがるんだ!!!」
罵声を飛ばすアストロトレインとは反対に。
「さぁーて、エネルギー補給もしたしちょっくら行くかー」
うーんと腕を伸ばして出る気まんまんである。
「おいっ、どうしてくれんだよお前!」
「何がだよ」
「何がって」
「許せ、デストロンだからな」
なんて返されて。
あっけにとられたアストロトレインがハッとしたのは扉がばたんとしまった音が響いたとき。
残された苛立ちと、その相手にたいする困惑な気持ちがどうしようもできずアストロトレインは壁にひとつ蹴りをいれた。
終
*ブリッツはアストロに惚れてます。ちなみにトリプルチェンジャーの反乱後の話。