興味で悪戯は止めろ
冒険心
薄暗いコントロール室。
人間には理解しがたい複雑な機械が並び、まるで現代には想像しがたいモノがずらりと並んでいる。
それを手馴れた手付きで簡単に操り、目で追えぬ速さでキーを叩く音が軽快になる。
それに混じるかのように、先ほどからコツコツと金属を小突く音さえも聞こえてくる。
サウンドウェーブは何も口にせず、唯自分の仕事を完了させる為メインコンピューターに向かっていた。
最初は気にも留めなかったその小突く音はいつまでたっても止まらずなり続けている為気に障りはじめ、ついにいらつきを覚えた。
自分が命令された仕事を集中とまではいかないが、それだけに気を向かせていたのだがそうも行かなくなった。
隣で同じ命令を受けた奴がもう一人。
粋がって最後には下らないまでに野望を破壊される空中参謀。
スタースクリームだ。
こいつは自分と同じときから此処にいるはずなのに、何もしないまま椅子に腰掛け遠くを見たまま指を上下に動かし続けている。
・・・・・・これで1017回目。
何時の間にかそんな回数を数えていた事に気づき内心で舌打ちをした。
それと同時に暫く休まなかった思考をいったん停止させる。
「・・・・・・」
相変わらず何処を見ているのか、サウンドウェーブの視線に何も応じない。
何を考えているのか、スキャンをかける気力さえない。
さっさと仕事をしろとでもいってやろうかと思ったが言うのも面倒臭い。どうせこのまま放って置けばどうせ叱られて罰を与えられるのはこいつだ。
けれど、けれど。
もしくの場合というべきか、メガトロン様の場合。
スタースクリームが罰を与えられて、こちらにそれが飛び火するかも知れない。
どうしてこいつにやらせなかった、お前も仕事をちゃんとしろ、なんて餓鬼の世話役のようなお言葉を受けるなんて死んでもゴメンだ。
しかもこの間抜けな奴のせいでなんて、さらに勘弁。
「オイ」
一言。殴りたいとおもう衝動を抑えてなるべく抑え目に声を出した。
しかし返事を返されるどころか、此方さえ見ない。本気でシカトさえているのか、故障しているのか。
「・・・・・・オイ」
もう一度。
名前を呼んでも全く変わらない。自分がここまで親切な行為をしようとしているのに、この態度にはついにいらつきが募った。
話しかける事さえもう面倒臭くなり、サウンドウェーブは自分の隣に腰掛けるスタースクリームの椅子を片足でガツンと蹴り上げる。
「っ・・・ぅおっ!!て、てめぇっ_何しやがる!!!」
「五月蠅イ 黙レ」
急な衝撃に椅子ごとよろめいたが、スタースクリームはギリギリのところでなんとか体制を守った。
突然された行為に驚きと怒りを滲ませているが、サウンドウェーブの方も似たような気配を滲ませていた。
「サッサト仕事シロ」
「うるせぇ、まずてめぇを・・・!」
「メガトロン様カラ オ仕置キヲ 受ケタイノカ」
「っ_!」
メガトロン・お仕置き。
そんな言葉をいっただけで異性のよさは何処かに消し飛んでいく。
あぁ、単純だなとマスク越しにほくそ微笑んだ。
「早クヤレ 仕事」
「分かってる!!ったく・・・」
「サッキ ヤッテナカッタダロウガ」
「うるせぇんだ!!」
どかりと五月蠅く音をたて座り込み、それを横目にもう一度作業に取り掛かる。
スタースクリームもぶつぶつと文句を言いながらキーに指を這わせた。
カタカタと今度は重なり合うキーの音。ミスがないかとチェックしながら進行を進めるサウンドウェーブは隣のデーターもまとめて見ていた。
そして改めて、悔しくて仕方がないがスタースクリームの能力に内心で驚いた。
やはりNO”2というか、それなりの実力者で元科学者。
作業スピードはかなり速く、凡ミスも何もない。様々な変更ルートも括り的確に進んでいく。
黙ってその作業に勤しめば完璧なのに、どうしてその良さを素直に発揮できないのだろうとメガトロン様も思っているのだろうと、頭を抱える理由を同じくぼやいた。
「おい、サウンドウェーブ」
「・・・ン」
急に考え中に名前を呼ばれ、思わず曖昧な返事をしたがスタースクリームは気に留めなかったようでひとつ安息を洩らす。
「このデータをそっちと共有してくれ、それとついでにそれのスキャンを頼む」
「了解」
言われて直ぐ、細かく言えば3〜4秒後には言われたことを全て完了させた。
其方と繫がったデータが此方に流れてくる。そして又、キーの打つ音が鳴る。
心地の良いBGMにも似た軽快なリズム。
薄暗い光に写るその横顔はふと幼くも見え、そうでも見えない。
サウンドウェーブは止まる事のないスタースクリームの手の動きを止めさせ、そっと触れた。
急なサウンドウェーブの行為にスタースクリームは驚きを隠せずはっと横を向くと、顔が向かい合う。
「な、なんだ・・・おいっ」
顔をしかめ、バイザーに潜んでいる瞳をスタースクリームは見つめ表情を読もうとした。
しかし目線があっているのか分からず、結局何を考えているのか分からず不意に顔をそむける。
サウンドウェーブは些細な仕草にも思いを膨らませた。
滅多に見ない、恥らうような表情をする彼を見るのは楽しいものだ。
だから、むくりと悪戯心が芽生えてくる。
「な、や、めろっ!ぉいって、っ!!」
「何ヲ?」
「触るなっ・・・放せよ!」
「却下」
そっと掴んだ手を探るように、もしくは丁寧になぞるかのように指先を辿っていく。
強弱をつけて握ったり絡ませたり。
そんな少しの手の動きに過敏に反応し必死に抵抗する姿が面白い。
しかも、その表情。体温が上がってきているのか頬にうっすらと色付きが見え始める。
それをスタースクリームは気付いているのだろうか、否、気付いていないだろう。
「ぅ_サウンドウェーブ・・・」
スタースクリームはシュルリとかすか音に目をやると、そこにはサウンドウェーブがいた。
けれどそれはいつもとは違う、マスクを無防備にしまっていた姿。
思わず驚きで言葉が詰まる。
見たことがないような、彼の口元、頬、ライン。
薄白いマスクで隠された部分をぼーっとし無意識に見つめていると、その口元に自分の手が持っていかれた。
そして、そのまま。
ペロッ
「っ・・・・・・ぅ・・・・・・・うああああああああっ!!!!! 」
「ヌオッ_!!」
バズンッ
「な、何事だー!!奇襲か、それとも何だー!!!」
耳を劈くような奇声といいようのない爆発音に破壊大帝、そしてデストロン軍のリーダーであるメガトロンが即座に中に足を踏み入れた。
そしてそこでみたものは。
椅子に手だけをのせ何とか体重を支えている見るから重傷であろう参謀サウンドウェーブ。
わなわなと息を上下しながら震えてサウンドウェーブにナルビームをむけたままの空中参謀スタースクリーム。
状況は全く読めないものの、怒りがこみ上げる。
「きっ・・・貴様らなんてことしてくれるんだっ!!これは大事なメインコンピュータではないか!!!」
この愚か者のせいで、大事なデータ及び手段を粉々にされた。
憤慨状態のメガトロンの顔は最高に、泣きたくなるほど恐ろしい。
「この愚か者めがぁっ!!何をどれほどしでかせば気がすむんだ!?」
「ち、違いますよ、これには訳が・・・」
「黙れ雑魚の分際でっ!!」
一発全ての怒りをこめてスタースクリームに鉄拳を一発食らわせるとぎゃつ、と叫びを上げごろごろともがく彼を早速無視し、もう一人の参謀に声を荒げた。
「サウンドウェーブ、データは!!」
「無理・・・・消エ、タ」
「っ〜〜」
その瞬間、本当に怒りが込み上げモーターがうなりをあげた気がした。
「いいか、サウンドウェーブは今直ぐ此処の修理にかかれ、リペアはその後だ!!
そしてそこの役立たず、貴様はこれから全部、全てのデータをすみずみまで入れろ、残さずだ!!!」
「そりゃ酷い、こいつだって・・・!」
「黙れ黙れ!!破壊されたいのか貴様っ!!!」
結局二人で叱られ罰を与えられ。
黙りこくった重い空気のまま何日かかるかも分からない作業にとりかかっていたとさ。
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